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いつかまた会える

「なにか面白いことはないかねぇ。」
ヘイブンステージ前のベンチに腰掛けながら待ち行く人を眺める。
私がブリタニアに降り立ってから数年。
世界中を駆け巡って、強いものを倒すことばかり考えて
いかに他の人よりも良い装備を手に入れるかばかり考えて
金儲けばかり考えて・・・。
一通りのことをやったと思ったとき、ふとここに戻ってきたくなった。

新たに降り立ってモンバットにも四苦八苦してるような
新米たちを見ながら、ぼーっと1日を過ごす。
私の超高級装備を興味の目で見られることが最初は優越感だったが、
今はそれもたいした刺激にはならない。

「・・・あれ?」
さっきから幽霊が何度も何度もヒーラー小屋まで走っていく。
それ自体は特に珍しいことではない。
新米つうものは、ある意味死んで強くなっていくもんだ。
ただ、さっきから通っている奴はあきらかにおかしい。
ヒーラー小屋で蘇生してもらっては戻っていき、また幽霊で戻ってくる。
あいつ・・・なんでそんなに死んでるんだ?
2006/06/25





「おい、そこの幽霊ちょっと待った。」
幽霊の姿で5回目に通り過ぎたとき、私は呼び止めた。
An Corp
「お前何と戦ってるんだ?」
回復してやってから事情を聞く。
「頭2つのデカイのに倒されちゃって、回収したいんだけど
なかなか近づけなくてすぐ殺されちゃって・・・。」
「ちょっと待て。ヒーラーで蘇生したあと回復はちゃんとしてるか?
何も持たずに行ったら、殺されるのも当たり前だ。」
「だって、荷物は全部死体の中に・・・。」
「銀行になんか置いてないのか?
いや、話してるよりまずは回収を急ごう。どこだ?」

奴をサポートしながら死体の場所へ急ぐ。
その道には点々と奴の死体が・・・・。
「こりゃすげーな・・・。」
回収を済した奴の身なりを見ても何をやりたい奴なのかわからん。
「お前何を目指してるんだ?」
「最初は鍛冶屋になりたかったんだけどキコリもやってみたらおもしろくて。
でも魔法もかっこいいですよね!
で、秘薬拾い集めてたらこんなことになっちゃって。」
「・・・・。」
新米にありがちなことだな・・・・。

「ありがとうございます。
じゃあ・・・秘薬拾いを続けますのでこれで。」
そう言って、立ち去っていく奴を見てピンッと何かが閃いた。
これはちょっとした暇つぶしになるかもしれん。
「お前、魔法使いになりたいなら私が教えてやろうか?」
歩きかけた奴が立ち止まり、びっくりした顔でこちらを見る。
「本当ですか?」
「ああ、私の修行は厳しいが、1人でやってくよりはましだろう?」
「あ、ありがとうございます!師匠!私はトマスです。よろしくお願いします!」
そう言いながら駆け寄ってくる。
「お、おい。師匠ってなんだ、師匠って。」
「色々教えてくれるんですよね?師匠と呼ばせてください!」
なんだかこそばゆいが・・・ま、まあいいか。
「師匠!まずは何を教えてくれるんですか?
魔法の使い方ですか?狩りの立ち回りの仕方ですか?」
「・・・まずは荷物整理だな。ほら、銀行に急ぐぞ。」


魔法の使い方よりもなによりも。
まずはこの世界で生きていくための方法を覚える必要がある。
どうやってお金を得るのか。
どうやって装備を整えていくのか。

エスコートは率先してやれ。
目的地まで送り届けたとき、きっといいことがあるはずだ。
ゴミはとにかく拾え。
銀行に貯め込んでおけというわけじゃない。
中にはお店に売れるものもある。
小さなお金をコツコツ貯めるのが初歩のお金稼ぎだ。
とにかくいろんな道具、いろんな装備をみて目を肥やせ。

魔法使いに便利な秘薬のコストを低減してくれる装備もあるが
最初っからそんなのを使おうと思うな。
最初はとにかく固い装備に身をつつめ。
私くらいの魔法使いになるとダメージを受けることなく相手を倒すことができるが、
詠唱魔法を唱えている間の間合いや立ち回りを覚えるまでは、
なるべく固い装備で身を守るんだ。

とにかく歩き回って秘薬を拾え。
小金が出来たら魔法屋で秘薬を買え。
秘薬は魔法使いの命だ。
絶対に切らすことなく、銀行に置いておけ。
秘薬の数を気にしながら魔法を使うくらい惨めなことはないぞ。

そこまで一気に話し、必死にメモしてるトマスを見る。
「よし、まずはお前に日々の日課を与える。
まずは1週間、ひたすらエスコートと秘薬拾いに集中しろ。
先立つものがないと何も出来ないからな。」
すぐに魔法を教えてもらえると思っていた奴は
少々不満げな顔をしながらもうなずいた。

1週間たって、約束を守っていたことを確認する。
もちろん1週間の間、奴がぶつぶついいながらもエスコートをこなし、
秘薬を拾い集めていたのは気になってこっそり見ていたが・・・。

「モンスターを倒すより、ずいぶんとお金が集まりました!」
トマスは意外と楽しんでいたようだな。
「よし、じゃあまずは・・・。」
そして、私とトマスの修行が始まった。
修行といっても、私は奴のサポートをしながら、魔法を詠唱するタイミングを教え
さらにヘイブンの外で待っている強いモンスターの話をしただけだ。

「イルシェナーっていうムーンゲートじゃないと行けない土地があるんだけどな。
そこにパラゴンつうモンスターの変異種がいることがあるんだ。
金色でな、普通のモンスターより足が速いしなんといっても強い。
奴に会ったときはまずは逃げて距離を取らないことにははじまらん。
普通のモンスターと同じ感覚で行ったら死ぬぞ。」
「徳之島にはヒリュウという、まあドラゴンと同じ種族のモンスターがいてな。
こいつは、魔法が使えない代わりに変な知恵を持っててな。
私らをまずは騎乗動物から落とそうと近づいて来るんだ。
奴はなかなか早いし攻撃力が高いから徒歩じゃなかなか逃げられん。」

トマスの中に少しずつ、もっと強い敵を倒したい、
もっといろんな場所を見てまわりたいという意識を植え付けたようだ。
いつしか、私との修行以外でも1人で練習を始めるようになった。
さすがにコツを覚えればヘイブンのモンスターなどたいしたことない。
トマスはムーンゲートの周りにいるリザードマンを倒しながら
ムーンゲートを眺めるようになった。
出入りする人たちをうらやましそうに見ている。
時には話しかけて、冒険話を聞かせてもらっているようだ。

もう・・・修行は次の段階に入ったほうが良さそうだ。

「トマス、ちょっと来なさい。」
私はトマスをムーンゲート近くに呼び出した。
「どうしたんですか?師匠。」
「そろそろ、修行も次の段階に入るべき時期に来たようだ。
お前は最低限の知識は身につけているはず。
さあ、これを持ちなさい。」
そういって、1冊のルーンブックを渡した。
「なんですか?これ。」
「トマス、ルーンというのは知っているだろ。
よく銀行前に置かれてたりする場所が刻まれていて魔法で飛ぶことができるアレだ。
この本はルーンをしまっておくことができる本だ。
中に1つだけルーンを入れといた。Despise前のルーンだ。」
「Despise?」
「ヘイブンから出たら、ある程度の資金が貯まるまではそこで修行するといい。」
「え、ヘイブンから出るって・・・。」
「トマス、そろそろヘイブンから出なさい。広いブリタニアを見てきなさい。
ここのモンスターではもう楽すぎて、最近気がぬけていただろう?
ムーンゲートを出入りしている人たちを見てうらやましいと思っていただろう?
お前もそろそろ外の世界を見てみるべきだ。」

「・・・師匠も一緒ですよね?」
「いや、私は一緒には行かない。トマス1人で行くんだ。
ムーンゲートをくぐって、まずはブリテインのゲートに出なさい。
首都ブリテインを見てみるんだ。
この世界にはいろんな人がいて、いろんな生き方があるということが十分わかるだろう。」
「師匠・・・・。」
「なに、修行をここで終わらすと言っているわけではない。
これは修行の次の段階なんだ。
このルーンブックがいっぱいになるまでダンジョンのルーンを焼いてきなさい。
1人じゃ危険な場所があるかもしれない。
ルーンを焼けないダンジョンがあるかもしれない。
それを全部試して、自分だけのルーンブックを作っておいで。
それが新しい課題だ。」
「そんな・・・無理です!」
「今は無理でももっと修行をすれば可能だろう?
1人じゃダメでも一緒にダンジョンに行く仲間を作れば無理じゃないだろう?
今までのモンスより相当強いからな。まずは装備確保のための資金集めからだ。
良いものを売ってる店を探すには足で稼がないとだめだ。
時には人から売ってもらったり、値段交渉の話術も備えなければな。」
「僕には無理なことばかり・・・。」
「やってみないとわからないだろ?
私とお前が出会ったようにまた新しい出会いが待ってるはずだ。
そして、たくさんの冒険話を持って、私に報告してくれ。」
「師匠・・・・。」

泣きそうになっているトマスを無理やりムーンゲート前に連れて行く。
「ほら、銀行に入っているものは、どこの銀行からも取り出しできるからな。
最初は多少死んでも大丈夫なように、お金は貯めただろ?
ほらトマス、泣いてないでがんばれ。」
「師匠・・・が、がんばります。早く師匠に会いに来れるようにがんばります。」
「ははは。無理はするなよ。私はお前が戻ってくるまで待ってるからな。
永遠の別れじゃないぞ。この世界に生きてる限り、いつかまた会える。」
そして、つかの間の別れのとき。
「さあ・・・行きなさい。」
トマスは何度も振り返りながら、ムーンゲートの中に入り、そして消えていった。

「さて、私も行くかな。」
トマスに昔話を聞かせてやっているうちに、
私もまだやってないことがたくさんあることに気付いた。
トマスがいつか戻ってきたときに負けないように。

ムーンゲートに入る。
私もまた冒険の旅に出よう。
いつかまた会えるその日まで。
2006/06/25

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by Kirill_Books | 2006-06-25 20:06 | Kirillと不思議な本 | Comments(0)

Ultima Online 瑞穂シャードでUO小説書いて本屋をやってたりするキリルの話だったりなかったり。


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