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Ruins in Desert

踏みしめていた砂が少しずつサンダルの隙間から入ってきて
足が砂に少し埋まるほどの時間そこにいた。
一歩踏み出すのに躊躇したまま、
他の場所に行くこともできず、そこにいた。
導かれる場所はあの建物以外ないのに、
駄々っ子みたいに自分のタイミングで歩き出したくて、そこにいた。

照りつける日差しも気にならなくなって
白いウィザードハットのおかげでいくらか涼しく感じたし、
いつもはブーツなのに、サンダルを履いてるところが夢だなと感じた。

歩き出してみた。
勢いをつける心構えなんて大それたことを考えるよりは
気がついたら歩き出していた、そんな感じで進んでいきたかった。
砂丘はこぼれるようにサラサラと崩れていき、
飛んでいるみたいにあっというまにたどり着いた。

乾いた風にずっと吹かれていたからだろうか、
近づいてみると少し崩れかかっているのがわかった。
玄関前の石畳の隙間から草が生えてきている。
もう長い間、人が住んでいない場所のようだった。
入るのに少し躊躇ったが、今更何を迷うことがあるだろうと、
玄関らしきドアに近づいてみた。
ドア部分にあるユニコーンの剥製がこちらを見ている気がする。
しっかり見ると目が合ってしまう気がして、
視線を感じてはいたが気がついてないフリをしてドアを開けた。

誰かが引っ越していった後のような、何も無い廊下だった。
草も生え、ランタンだけが灯し続けている場所にさらにドアが二つあった。
奥のドアから入ってみようかと近づいてみると、
ドアを守るように金色の骸骨がついていた。
風通しのいい場所のせいか、時折風にあわせてアゴをガクガクさせて、
今にも話し出すのではないかと思うような骸骨。
こちらをじっと見、ガクガク言わせている骸骨を無視して
ドアを開ける気にはなれなかったので、手前のドアから部屋に入ってみた。
床から草が生えている部屋には壁際にテーブルがあるだけだった。
天秤と地図が置いてあるそのテーブルにも埃がかぶり、
長い間持ち主がいないことを実感させた。
隣の部屋へ通じるドアもあったが、先ほどの骸骨が頭に浮かんで
入るのはやめることにした。

何も無い家。
一度外に出て、階段を上ってみる。
階段にあるランタンは昼間でも煌々と照らし、
飾っている草や花は今でもきれいに咲いていた。
この家の敷地に入ってからは、外なのに風も砂も気にならなくなった。
外で強いと感じていた風も舞っていた砂も柔らかく感じた。
ゆっくりゆっくり階段を上っていくと、
1階よりもさらに雑草の生えた床と蔦が絡んだ壁の広場が見えてきた。
人が集まる場所だったのだろうか、椅子と机が乱雑に置かれていた。
それぞれの机には本が置かれていて、番号が振られたタイトルに興味がそそられた。
この家のオーナーの本だろうか?店の連絡帳?
何にしてもこの家のヒントが隠されていると思い、机の一つに近づき本をめくってみる。
表紙を開き、2ページ目。
タイトルを見て、少し嫌な予感がした。
聞いたことのあるタイトル、読んだことのある話。
いたずら書きのように以前メモ書きに書いた話だった。
他に置いてある本に走りよって、全てに目を通す。
冷静に考えてみれば、これは夢だ。
頭の中にある話が、夢の中で本になり置かれている。
逆に他人の話が置かれているよりよっぽど普通なはずなのに、
あまりにリアルな感覚に、
自分がしていないことがされてる状態をすぐには飲み込めなかった。

書きかけだった話。
書いて納得いかずにしまいこんだ話。
いつか書いてみようと思っていた話。
メモ書きに書いて満足してしまっていた話。

自分でも忘れていたような話が本になって積まれている。
まるで話が意思を持ち、本になりたい、本になりたいと訴えているようだった。
目をそらしたいけど、そらせない本一つ一つを読み終えると、
奥に部屋があることに気づいた。
もう行かなくてもわかる、あの部屋は私の部屋だ。
机があって、本があって、本棚があって。
棚を開ければ、完成した原本が入っているのだろう。

私の部屋だ。

あの部屋に近づかずくともう終わりな気がして、近づかずに上の階へと進む。
砂漠に似合わない水の流れと、異質な石の塔。
その近くの木陰に到木を見つけて座る。
朽ちかけた建物に乱雑に置かれた本。
似合わない屋上の塔は、さながら私の見栄でも現してるんだろうか。

笑いが止まらなかった。
ひとしきり笑っても風に流されて笑い声は溶けていく。
今の心はこの朽ちかけた建物のような、中身の何もない部屋のようなのだ。
忘れてた話だけが、早く本になりたいと具現化し、
外から見える屋上だけが緑を湛え、妙な塔を誇っている。

これが、これが私なのだ。

自暴自棄になっているわけではない。
あまりの私らしい家に納得してしまったのだ。
以前、夢で話を見ていた私に、夢で訴えてくるとはさすが私、と。
これと同じ家を作ろう。
忘れていた話も掘り起こして本にしよう。
朽ちた場所もそのままに再現しよう、それが訴えてきた心に対する答えだ。

倒木の横にあった本をめくろうとすると、目の前が歪んだ。
溶けてマーブル状になった情景がやがて再生されて、
目の前に広がったのはあの古ぼけた狭い部屋だった。
先ほどまで見ていた夢があまりにもリアルすぎて
こちらが夢なんじゃないかと思ってしまう。
しばらく毛布にくるまったまま夢を思い起こしていたが、
はっと気づきベッドから飛び起きる。
机の上の埃まみれの本をよけ、バッグから新しい本を出して開く。

もう書くことは決まっている。
忘れないうちに早く書こうと気ばかりが焦る。
書き終わったら、新しい土地を見に行って、あの家を再現するんだ。
椅子に座るのももどかしいほどに、ペンをもちタイトルを書き込んだ。

Ruins in Desert

窓から外を見ると、太陽が昇り始めきれいな朝焼けが見えた。
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by Kirill_Books | 2008-08-24 16:13 | 綴られたモノ
脳裏に浮かぶは
ぴとん、ぴとんと一定の間隔で落ちる、聞こえるわけではないのに感覚でわかる音。
耳元で鳴っているのか、遠くなのか、距離感もよくわからない状態で体に響いてくる。
寝ていたはずなのに。
たしか、あの狭い部屋の小さなベッドで毛布にくるまっていたはずなのに、
聞こえてくる音、閉じた目に感じる光、肌をそよぐ風、全てが寝る前の感覚とは違っていた。
肌の上を軽やかに踊るようにいく何かを確かめたいような、
目を開けてしまうと全てがなくなってしまうような。
やがて肌に当たっていた何かが小さな小さな砂と感じる。
空気の乾いたにおいとささーっと時折聞こえる砂の音から、
潮を含んでいない風に砂漠の情景が目の裏に浮かぶ。

太陽がギラギラと照らしてる日差しは感じるのに、
体を刺す熱は感じないところに夢だとはっきりを認識しても、
それでも夢は覚めず、覚めないどころか砂漠の奥へ奥へと歩いていく。
自分の足も体も見えてはいないのに、足の裏に感じるのは砂を踏みしめる感触。
妙にリアルなのにところどころ夢の都合よさもあるのが妙におかしくて、
出来れば覚めないでこのまま見ていたいと思う。

砂丘を登りきったところから見える風景に、一つ不思議なところがあった。
いくつか家が見え、夢の都合もありだいたいはぼんやりしてたり、
家だと認識はしていてもどんな形だと聞かれるとわからないような、
まさにその場所に大きく"家"と書かれているような程度の感覚だったのに、
一軒だけはっきりと形がわかる家があったのだ。

しばらくその家を見つめていた。
明らかに自分を手招いているような家に簡単に近づいていくことは躊躇われた。
怖いとか、気味が悪いとかそういうことではない。

あの家に行くことがこの夢の目的のように感じられたのだ。
だからこそ、近づくということは夢の終わりに向かう気がして
近づくのに少しの時間が必要だったのだ。
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by Kirill_Books | 2008-08-22 11:27 | 綴られたモノ
[改]ある宿屋で
ギギィーーッ
バタンッ

たったランタン一つの明かりで、部屋のほぼ全体が薄ぼんやりと照らされるような
狭い部屋にあるのは、硬いベッドとタンス、そして一対の机と椅子だけ。
毎夜この部屋に戻っては何もせずに眠る日々を、もう2ヶ月近く続けている。
新店舗が出来るまでの仮住まいと宿に部屋を借りたが、
こんなに長くいるはめになるとは思っていなかった。

店舗を休んでいる間にいくつか書いておこうと意気込んでいた自分がいた。
最初の数行を書いて放置された机上の本を、すっと指でなぞるとうっすら埃がつく。
どんな話を書こうとしていたのか、何を思い描いていたのか、
微かな記憶の中からはもう思い出すことが難しい。

なにが、なにが変わったのか。

部屋の小さな窓から外を眺めると、
夜中だというのに沼ドラに乗った戦士たちが走ってムーンゲートのほうへ向かっていた。
以前であれば、その姿から戦士の冒険活劇でも書こうかと、
思いはすでに空想の世界へ行っていたはずなのに、
ココロは今もこの狭く薄暗い部屋の中にある。
いいのか悪いのか、現実から目を離すことができない。

自由になったと感じるときがある。
大切なものを失いかけていると思うときもある。

どちらも本音であり、どちらか片方だけでは成立しない気持ち。
犠牲を払いながらやってきたことへの罪意識があるのだろうかと考えたところで、
無意識にふふっと笑いがこぼれた。

やっていた頃はいつも気持ちに正しいことを選択していると思っていたのに
その気持ちが変わってしまえば今まで正しかったという自信も、
すぐにぐらついてしまうものなのだ。

この辛気臭い部屋にずっといるからおかしなことばかり考えてしまうのかと街に出てみても、
心に映る情景は決していいものばかりではない。

部屋のランタンの明かりを消して、ベッドにもぐりこむ。
次に起きたときには新しい日が待ってますように。
そう祈りながら眠る。
深い、深い眠りに落ちる。

[改]2008.8.22
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by Kirill_Books | 2008-08-17 15:31 | 綴られたモノ