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普段は冗談ばかりでも

しんしんと雪が降るマラスの奥地。
彼女が家に訪れた理由を男はまだ知らない。

「広い家ってのも考え物だよな。
いくらでも物置けると思ってたら、あっという間だよ」
いくらか種類ごとに分類された箱はあるものの、
床一面に置かれた、一見して高価とわかるそれは
行き場所がなく放置されたまま。
「これは片付けに時間かかるねぇ」
一つ一つ箱と中身をチェックして歩く彼女も、その量に驚くばかりだ。
「今度一緒に片付けてな」
男の言葉に彼女は"うん"とうなずくが、どこか上の空で返事が曖昧だ。

「どうした?」
彼女の変化はすぐわかる。
いつも冷静でいるようで、実は熱い彼女。
向上心や努力やどうしたらもっと良くなるかなんて、話しだしたら止まらない。
男はそこに惚れて、ようやくここまできた。
二人で家の荷物整理のできる関係。
たまに"奥さん"なんて言うと
彼女が恥ずかしがるところもかわいいと思える関係。

「…昨日ごめんね」
きっと寝る間際のことを言っているのだろう。
久しぶりにカオスでバルロン狩りをしていたが、
急に出たパラゴンに彼女は苦戦した。
ずっとイライラしているのは男に伝わってきていた。
自分の下手さに怒っていて
現状の実力はこんなものかとがっかりしているのも伝わってきた。
だから昨日はあまり会話もせずに彼女は寝てしまったのだ。

「しゃーない、そんな日もあるさ」
「じゃあ、気にしなーい」
少し明るくなった彼女。
昨日の自分の態度の悪さにずっと反省していたのだろう。
「うん、それでいいよ」
彼女が反省しているのがわかってたから
あえて気にしてないふりをしている男。
実は昨日彼女が寝ると言った後も
もしかしたらどこかにいるのかもしれないと
二人の思い出の地を探しまわっていた。
自分をすぐに追い詰めて孤独になろうとするけど、本当はさびしがり屋。
そんな性格なのをわかっていたから。
「ごめんて言ったのも取り消しー」
「それは、取り消さなくていいよ」
「えー!」
こんな軽いやり取りができるようになったら、もう元通りだ。

急に男が真面目な顔をし、
触れるんじゃないかと思うほど、
彼女の耳の近くに唇を寄せて来た。
[たいせつにしたいと]
[いつもかんがえているよ]
[だから]
[ちいさいことは]
[きにすんな]
彼女の反応を待たずに、男は離れた。

「さっ、昨日のリベンジ行くか?」
微笑んだ彼女を見て、彼はゲートトラベルの魔法を唱えた。

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耳元で言った[ ]の言葉は
パーティチャットで言ったことにしたかったけど
どうやっても書き方が難しく、耳元で囁いたことにした。

誰もいないのわかってて、二人しかいないのに
大事なことだけ、そこだけあえてのパーティチャット。
言った途端彼女の反応も見ずにパーティ切るってところも
ほんとその為ってのが伝わっていい。
本当に彼女だけに言いたいという気持ちが伝わってくる方法だなと感動したのでした。
…いや、想像ですけどね。
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by Kirill_Books | 2013-11-10 15:08 | 綴られたモノ | Comments(0)

Ultima Online 瑞穂シャードでUO小説書いて本屋をやってたりするキリルの話だったりなかったり。


by Kirill_Books