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End Of...

暑いですね。
暑い中で、きゃっきゃうふふのハッピーエンドなど
想像もできないのです。

こんな暑い時期には、もっとこう…
じわじわくる怖さとか気持ち悪さとか
そういう方向のほうが考えやすいし、書きやすい。

というわけで、
お祝いと思える日に、本当に祝う気あるのか?という本をいただいたので
お返しに、本当にお礼を言う気があるのか?という話を書いてみました。



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End Of...

「君が心配する必要もないくらい、元気になって帰ってくるから」
彼はそう言って、旅立って行った。
どこの街へ行くのか、どこのアルケミストに頼るのか、何も教えてくれず。

どちらの空に向かって祈ればいいのかもわからぬまま
いつ帰ってくるのかも知らぬまま
すでに十分すぎるくらい心配してるし、不安になってるんですよ、と
彼に伝えたくても方法がなく
ただ眠れず、涙する日々が続いていた。


そして…

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こんな始まり。
※気持ち悪さを目指して書いたくらいの気持ち悪さなのでご注意。



End Of...

「君が心配する必要もないくらい、元気になって帰ってくるから」
彼はそう言って、旅立って行った。
どこの街へ行くのか、どこのアルケミストに頼るのか、何も教えてくれず。

どちらの空に向かって祈ればいいのかもわからぬまま
いつ帰ってくるのかも知らぬまま
すでに十分すぎるくらい心配してるし、不安になってるんですよ、と
彼に伝えたくても方法がなく
ただ眠れず、涙する日々が続いていた。


そして…



「…起きて」
「…ねぇ、起きて。帰ってきたよ、僕は帰ってきたんだよ」
毎夜不安になり、泣いていた私が
泣きつかれて寝ていたその夜深く。
真っ暗な部屋の中で、その声を聞いた。

まだ覚めぬ頭の中で、微かに聞こえる声。
あまりに彼を求めすぎて、リアルな夢を見ているのかと
それならこのまま覚めないでと思いながら。
少しずつ覚めていく頭で、耳に聞こえる彼の声はより確実のものとなり
ようやく目を開けたときに、目の前に彼はいた。

いたのだ。

「おはよう」
にこりと笑ったその顔はまさしく彼で
差し伸べられた手に引っ張られ
彼の胸に引き寄せられて、ようやく出来事を信じられる。


彼は帰ってきたのだ。


「お帰りなさいッ!こんな夜中に着いたの?どうなの?体はどうなったの?」
彼に抱きつきながら見上げると、待ち望んでいたふわりとした微笑を返してくれた。
「君のために戻ってきたんだよ」
彼の腕の中の心地よさに、また睡魔に襲われそうになるけど
ふと、ひんやりとした彼の肌に気づく。
「なんだかとても冷たい…体冷えてしまったの?」
彼は先ほどとは違う微笑で、私にこう言うのだ。
「汗で冷えてしまったかな。僕を温めてよ。君の肌で」

彼は私を抱きしめながら押し倒し、全てを脱がした。
この夏の、深夜とはいえまだ暑さの残る夜に
私の熱で、彼を温めたい
私の熱で、彼を熱くさせたい
抱き合う体がこのまま溶けて一つになれるように。

しかし、いつまでも彼の体はひんやり冷たく
中に入ってくる彼も冷たいままで
私の熱との差が際立つのが、
泣きたいほど寂しく、また泣きたいほど快感だった。
形がわかるほど冷たいそのものを熱くさせたいと動いても
冷たいものは冷たいままで私の中で動く
吐き出されるものさえ、冷たく感じ
それが唯一ゆっくりと私の熱で徐々に冷えを失っていく
これが彼を冷やしている原因なら、
どうぞ私の中に吐き出してと
繰り返し彼に望むのだった

夜明け前、彼は一度帰ると家を出て行った。
離れることに不安がなかったわけじゃないが、
それよりも疲れ果てていて、
何とかベッドから出て行く彼を見守るしかできなかった。


あの時、彼を引き止めればよかったと思ったのは
その日の夕方。
ようやく起きて、身支度をした私は彼の家に行った。
最後まで冷えたままの彼が心配だった。
長旅だったのだろう、疲れがたまってたのかもしれない。
もしかしたら一息ついた途端、倒れてる可能性もある。
旅立つ前の彼は体が弱く
あんなにも繰り返しできるような人ではなかったのだ。

彼の家には誰もいなかった。
いないどころか、昨日と同じまま。
家主が帰ってきた様子もない。
荷物もなにも置かれておらず、家に入った形跡もない。

彼は…彼はどこに行ってしまったのだ。
私を抱いた彼は、彼でなかったのか?

混乱と悲しみと、可能性のあるかもわからない微かな期待で
今夜も不安を抱きながら、寝なければならないのかと…
家に戻った私は明かりもつけず、打ちひしがれていた。

しかし、彼は夜遅くに現れた。
「どこに行ってたの?夕方家に行ったのよ?でもいなくて…」
彼を見た途端に不安をぶつけたが、彼は困ったような顔で少し微笑んだだけだった。
「あの家には…帰らないよ。違う場所に住んでるんだ。
君にも落ち着いたら話すよ。落ち着いたら…」

今話してほしいと言おうとも、彼は私の口を塞ぎ
「昨日の続きをしよう」
それだけ言い、私をベッドに誘うのだ。
昨日と同じ冷えた彼の体。
何度抱いても、温まらない体。
それが彼の気持ちを現してるなど、思いはしないが
こんなにも私を抱きしめ、愛してくれてるのだと
感じさせてくれているのだと、頭ではわかっているが
それでもいつまでも冷えた体に、哀しみを感じないわけではなかった。

だからこそ何度も求め、そして彼に求められたいと思ってしまうのだ。

そんな日が毎日のように続いた。

深夜、待ち疲れて明かりを消し寝てしまおうとしたところにやってきて
そのまま一緒にベッドに入る。
夜明けがくる前に帰っていく。

彼が来るだろうと、明かりをつけたまま待っていても来てくれず
不安に駆られ、泣き疲れ、明かりもつけず寝てしまった時にやってくる。

そのうち、気づいた。
彼は明るい時にはやってきてくれない。
いつも暗いうちに来て、明かりもつけずに、ベッドへと誘う。
そして明るくなる前に帰っていくのだ。

彼にたまには目を見て、顔を合わせて、
これからのことを話しましょうと言ってみるが、
大きく顔を横に振られてしまう。

「あなたの顔をよく見たいの」
甘えたような声で、彼に言い、明かりをつけようとするも
「それより、かわいい声でなかせたいよ」
と、ベッドへ誘われる。

私はその誘いを断れない。
私は彼の隠している何かをそこまで知ろうとしてなかったから。
だって彼はここにいるのだもの。

彼に合わせるうちに、私は日中外に出なくなった。
明け方近くまで彼と一緒にいれば、昼間は疲れ果て寝ているだけだった。
夕方あたりから起きて、日常のことをするが、
少し食べるだけで、あとは明かりもつけず
家でひっそりとしている。

だって、そうすれば、彼はすぐに来てくれるから。

彼といる時間が長くなれば、自然と抱き合う時間も長くなり
それは幸せな時間が増えていると同じ事だ。

「最近やせてきた?」
肩に口付けながら、彼は言った。
彼が戻ってきて2週間程たったころだった。
「あまり食べてないの。でも元気よ」
日中、外にも出ず仕事もしてないのだ。
蓄えはあるが、今の生活ができるだけ続けられるよう
質素な食生活にしているのは事実だった。
彼は私の家にいる間、食べ物を口にしない。
私も同じく食べない生活が続き、日に1食ほどしか食べなくなっていた。

「なんだか体も冷えてるようだ」
私の熱が彼を温めないなら、私は彼の冷えを受け入れる。
「あなたに似てきたかしら?」
少し冗談ぽく言ったのだ。
何も真面目に返したわけじゃない。
なのに。
「だめだッ!君はこちらに来てはいけないッ!」
だめ?…こちら?
予想外に怒鳴る彼の言葉に、ひっかかるものはあったが
それよりも見たことのない彼の怒りに、恐れる気持ちが大きかった。

「じょ、冗談よ。でも私はあなたと同じになりたいわ。
私達ずっと一緒よね?」
先ほどの怒りが残っているのか、彼は寂しそうに微笑むだけだった。

さらに1週間。
彼だけがいればいいと
飽きることなく、彼との夜が続いた。
彼の体は相変わらず冷たかったが、それさえも
今ではたいした問題ではなかった。

いや、振り返れば問題はいくらでもあったのだ。
でもその一つ一つに目を向けてしまうと
彼との時間を失ってしまうかもしれないと
目を向けることが怖かったのだ。

私はこのままで十分すぎるほど幸せだった。
求めて、求められて、満ち足りた時間を過ごしている。
これ以上に必要なことは、私にはなかった。

それでも疲れは溜まっていくもので
ある日、私も彼も途中で寝てしまった。
抱き合ったまま眠るのもまた幸せで
この暑い中でひんやりとした彼に抱かれるのは
とても心地がよいことだと良いように考え始めていた頃だ。


朝日が差し、真っ暗な部屋に少しずつ光が差し込んでくる。
窓から遠いベッドの上であっても、光が届くのはそう遅くなかった。
私はまどろむ中で陽の光に気づいていたが、
言うと彼が帰ってしまうと、寝たふりをしていた。
彼が帰ってきてから初めて、陽の光の中で抱き合えると
それが神聖な行為かとまで感じていた。

ゆっくりと目を開け彼の顔を眺め…
彼の顔を…

眺め…


そこにいたのは、真っ白な
血の気の全くない、真っ白な顔の彼だった。


「起きて!大丈夫?具合悪い?」

今までもこうだったのか、今日だけ真っ白なのかわからない。
明かりのない闇夜の中では気づかなかった。
彼を揺り動かし、起こそうとするが彼はなかなか起きない。
やはり具合が悪かったのか。
でも真っ青どころではない、真っ白なのだ。

そのうち、陽の光がベッドに届き彼を照らし始めた。
陽の光に当たった彼の足は

彼の足からは、煙が…
焼け焦げたような匂いが…

「起きてッ!早く起きてッ!」
白から黒く焼け焦げたような彼の足を、シーツで覆い
彼に布団をかぶせ、窓もシーツで覆う。

少しでも陽が入らないように、
彼に当たらないように

「……ッ!」
ようやく目を覚ました彼は足の痛みで声がでないのか
もっと別のことなのか、
なんにしても起きた様子はあったが、動かず、何も発しなかった。

応急処置的に部屋の窓を板で覆った。
それは大変な作業で、終わる頃にはすでに夕方だったが
板を打ち付けている間中も、部屋に充満した肉が焼け焦げた匂いが
今起きていることが事実だと私に訴えかけてきた。

陽がまったく入らないとわかってから、彼は包まっていた布団を取った。
何から聞こうか、何から話してくれるのか
どちらが先に言葉を発したらいいのか
ずっと考えていたが、答えはでていなかった。

「…ごめん」
ようやく口を開いた彼は、一言ごめんと言った。
謝ってほしいわけじゃない、どうなっているのか知りたい。
事実を知りたい。
隠されている真実、怖くて目を向けなかった事実を知りたい。
でも、聞くことはできずに
彼を抱きしめ泣くだけだった。

怖かった。
ゆっくりと終わりが近づいている感覚が。
少しでも遅らせたくて、何も言わずにいたかった。

抱きつく私の頭をゆっくりと撫でていた彼は
心を決めたのか、少しずつ話をしてくれた。

彼が旅立ったのは、アンブラだった。
噂で聞いた、アルケミストのところへ頼みに行き、
弱っている体をどうにかしてくれと頼んだ。

アンブラのアルケミストは、それならネクロマンサーに頼めばいいと
彼に言ったらしい。
ネクロマンサーなど危険以外になにもないのに、
彼は微かな期待と共にネクロマンサーに頼んだのだ。

そして、ネクロマンサーの答えは…
一度死ねと。
死ねばネクロマンシーの秘術で起こしてやると。
ブリタニアの魔術師にはできない力で
お前を死んでも起こしてやると、そう言った。

その言葉にのった彼を馬鹿にできるだろうか。
彼は残り少ない命に焦りを感じていた。
何も遺せずに死んでしまうことに、
私を残して死んでいくことに、悩んでいた。

藁をも掴むとはこういうことなのだろうか。

そして…
彼は死に…
起こされた…

一時的な生命を与えられた死者として。


泣き叫びたくて、どうしようもなかった。
でも彼を思えば、それは今するべきではないと我慢した。

彼は最後に、アンブラの安置所で眠りたいと言った。
ネクロマンサーから与えられた一時的な生命を少しでも増幅するために
アンブラの安置所で日中は寝ていたようなのだ。

遺された命の灯火とはいえ、一時的なもの。
一時の時間を与えられた死者が帰るところはここなのだと。
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あれから私は毎日ここに来る。
陽にあたらないように、布でくるんで見ることはできないが
それでもきっと彼はここにいる。

毎日のように私の中に注いで彼が残していきたかったモノが
少しずつ自らの存在を示し始めている。
日ごと、少しずつ大きくなっていく腹に
ここで手をあてていると、安心できるのだ。

一時の命を与えられた彼が私に残したモノ。
これは生きているのか、死んでいるのか。
わからないモノが、今私の中で大きくなっている。
どちらにしても、彼が残していったこの子を私は愛そう。

私にはもうこの子しかいないのだから。
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by Kirill_Books | 2015-07-29 21:30 | 綴られたモノ | Comments(0)

Ultima Online 瑞穂シャードでUO小説書いて本屋をやってたりするキリルの話だったりなかったり。


by Kirill_Books