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[改]ある宿屋で

ギギィーーッ
バタンッ

たったランタン一つの明かりで、部屋のほぼ全体が薄ぼんやりと照らされるような
狭い部屋にあるのは、硬いベッドとタンス、そして一対の机と椅子だけ。
毎夜この部屋に戻っては何もせずに眠る日々を、もう2ヶ月近く続けている。
新店舗が出来るまでの仮住まいと宿に部屋を借りたが、
こんなに長くいるはめになるとは思っていなかった。

店舗を休んでいる間にいくつか書いておこうと意気込んでいた自分がいた。
最初の数行を書いて放置された机上の本を、すっと指でなぞるとうっすら埃がつく。
どんな話を書こうとしていたのか、何を思い描いていたのか、
微かな記憶の中からはもう思い出すことが難しい。

なにが、なにが変わったのか。

部屋の小さな窓から外を眺めると、
夜中だというのに沼ドラに乗った戦士たちが走ってムーンゲートのほうへ向かっていた。
以前であれば、その姿から戦士の冒険活劇でも書こうかと、
思いはすでに空想の世界へ行っていたはずなのに、
ココロは今もこの狭く薄暗い部屋の中にある。
いいのか悪いのか、現実から目を離すことができない。

自由になったと感じるときがある。
大切なものを失いかけていると思うときもある。

どちらも本音であり、どちらか片方だけでは成立しない気持ち。
犠牲を払いながらやってきたことへの罪意識があるのだろうかと考えたところで、
無意識にふふっと笑いがこぼれた。

やっていた頃はいつも気持ちに正しいことを選択していると思っていたのに
その気持ちが変わってしまえば今まで正しかったという自信も、
すぐにぐらついてしまうものなのだ。

この辛気臭い部屋にずっといるからおかしなことばかり考えてしまうのかと街に出てみても、
心に映る情景は決していいものばかりではない。

部屋のランタンの明かりを消して、ベッドにもぐりこむ。
次に起きたときには新しい日が待ってますように。
そう祈りながら眠る。
深い、深い眠りに落ちる。

[改]2008.8.22
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by Kirill_Books | 2008-08-17 15:31 | 綴られたモノ | Comments(0)

Ultima Online 瑞穂シャードでUO小説書いて本屋をやってたりするキリルの話だったりなかったり。


by Kirill_Books